The Culture Factor

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文化をツールとして使いこなすためのヒント(1)ー 経営、ビジネスという文脈の中で捉える「文化」とは

2016.11.02 宮森 千嘉子

こんにちは、宮森千嘉子です。

「文化がビジネスに影響を与える」ことを、おそらく皆が認識しています。戦略実践のために組織の対話を深めたり、風土を測定してそこから解決策を見出そうとしている経営者、コンサルタントの方々もたくさんいらっしゃいます。一方、2013年Culture and Change Management Survey(PWC)によれば、84%の経営者がビジネスの成功には文化が不可欠であると答えていますが、文化を効果的に管理できていると回答したのは35% にすぎません。これはつまり、「文化」をビジネスのツールとして使いこなすことが、なかなかやっかいであることを示しているともいえます。そこで、これから数回に分け、「文化と経営の父」として知られ、ウォールストリートジャーナルで今世紀最も大きな影響を与えた経営学者20人の一人に選ばれたことのあるヘールト・ホフステードの学術的な研究成果をベースに、文化を「ツール」として使うためのヒントをご紹介していきたいと思います。(ちなみにホフステードは経営と文化の関係性に最も早くから着目した学者の一人で、ソフトイッシューとして捉えられがちな国の文化/組織文化の違いを数値化しました。彼は人間や組織が抱える複雑さを出来る限り視覚化することで、文化をビジネスの現場で使いやすくしようと、86歳の今も日々研究を続けています。)

文化とは何か?

では、経営、ビジネスという文脈の中で捉える「文化」とは、一体何を指しているのでしょうか?ドラッカーが「リーダーのすべきこと(What)は世界中どこでも同じだが、どうやるか(How)は文化によって異なる」と述べたのは良く知られています。彼はまた、「文化は朝食に戦略を食べる」という表現で、どんなに優れた戦略があっても、文化と整合していなければならないことを指摘しました。

「文化」の概念は100年以上も前に人類学者によって紹介されました。今日Googleでdefinition of culture を検索すると1億9千万、日本語で「文化の定義」と検索しても1千万近くの結果がヒットします。まさに提唱者の数だけ定義があるとも言えるでしょう。文化人類学的な考え方で大きく捉えれば、文化は集団の中で創造され継承されている暗黙のルールと捉えることができます。ホフステードは、文化を「ある集団と他の集団を区別するための心のプログラミング」と定義しました。文化は本質的に個人ではなく、集団に属するものです。そして、その集団の中でうまくやっていくために、プログラミングされるもの、学習して習得するものとして捉えていただければと思います。

文化のレベルとプログラミング

さて、「文化」を考えるとき、私たちは「ここでのやり方、仕事の進め方」「会社の価値観」などと、シンプルに捉えてしまいがちですが、しかし、これらはすべて表面的なものであり、実はこれだけでは文化を理解したとも、捉えることもできないのです。文化には、それがプログラミングされる時期と場所によって、様々なレベルがあり、変革が困難なものと、変革可能なものがあることを認識しておくことが重要です。ここでは、国民文化と組織文化の2つのレベルを見ていきましょう。

図1 文化を学習し習得する年齢とプログラミングの場所

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私たちは生まれたときから、両親、あるいは周囲の大人から、「人に迷惑をかけないようにしなさい」「時間を守りなさい」などと、日本という国で生きていくためのルールを、無意識のうちにプログラミングされていきます。これが国の文化(国民文化)と呼ばれるものです。米国人にとっては個人を重視すること、日本人にとっては人に迷惑をかけないこと、オランダ人にとっては何よりも率直であること。このように、ある国の人々にとって何が重要であるかという国の文化の核:価値観は、12歳までの幼少期に確立し、その変革は不可能でないまでも、非常に時間がかかります。

グローバル企業では「企業の価値観」を重要視しています。先日私がグローバル企業70社のValue Statementをランダムに調査した結果、実に6割以上の会社が「インテグリティ」「顧客フォーカス」「クォリティ」「イノベーション」などの言葉を採用していました。これらの言葉は「価値観」を表しているのでしょうか?いえ、そうではなく、「人々が実際に何をするか」、つまり「慣行」を示す言葉であり、これらを組織文化です。組織文化の中枢は日頃の行動、実務、態度・慣習、つまり人々が実際に行っていることにあります。組織の文化は、意識し、意図することで変革可能です。

 

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このように、文化は様々なレベルで存在し、そのレベルにあった分析をしなければ理解できない複雑な概念です。グローバル企業の「コーポレートバリュー」「企業の価値観」が目指すように、ただひとつのどの国にも通用する価値観は、実は存在しないのです。組織を運営する上では、不確実性が高まり、競争優位が小さくなり職場が不安定になるに連れて、価値観(国民文化)の影響が大きくなります。変化の難しい国民文化とは何かを理解した上で、変革可能な組織文化をつくって行く必要があります。

 

組織文化診断

ホフステードの組織文化モデルは、6つの独立した次元(切り口)と2つの半独立の次元で組織文化を診断します。文化を可視化することで、戦略と文化を整合させ、組織のゴール達成を支援します。課題に応じて半日~2日程度のワークショップを作成・実施します。


宮森 千嘉子

ファウンダー

サントリー広報部勤務後、HP、GEの日本法人で社内外に対するコミュニケーションとパブリック・アフェアーズを統括し、組織文化の持つビジネスへのインパクトを熟知する。また50 カ国を超える国籍のメンバーとプロジェクトを推進する中で、多様性のあるチームの持つポテンシャルと難しさを痛感。「組織と文化」を生涯のテーマとし、企業、教育機関の支援に取り組んでいる。英国、スペインを経て、現在米国イリノイ州シカゴ市在住。異文化適応力診断(IRC) , CQ(Cultural Intelligence) , GCI (Global Competencies Inventory), 及びImmunity to Change (ITC) 認定ファシリテータ、MPF社認定グローバル教育教材<文化の世界地図>(TM)インストラクター、地球村認定講師、デール・カーネギートレーナーコース終了。共著に「個を活かすダイバーシティ戦略」(ファーストプレス)がある。青山学院大学文学部フランス文学科、英国 アシュリッシビジネススクール(MBA)卒。

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